dw821memories’s blog

映画の感想などを書いていく予定です

【映画感想】ジョーカー

 『バットマン』シリーズは一度も観たことがないのでスピンオフらしいこの作品を理解できるのかと思ったが、全く問題なかった。ジョーカーというキャラクターの誕生秘話というよりも、彼をモチーフとした全くの単体の映画と捉えてもたぶん大丈夫だと思う。

 観た人によって感じ方は勿論、ストーリーの解釈すらも捉え方が違ってくると思う。精神の持病があって社会的に貧しい立場にある男(アーサー)が描かれているけど、隣りに住む女性とは恋人関係にあって自分のライブを観に来てくれたりデートしたりでまだマシじゃないかと思って観ていたら後半、それが全部アーサーの妄想だったと思わせるシーンがある。いくつかの場面が普通に続いているようで、後からのシーンで少し辻褄が合わなくなり「あれは妄想だったのか」と思わせる展開が斬新。たぶん妄想だけど絶対とは言い切れない描き方が上手だと思った。

 この妄想と思われるシーンも実は現実とも見て取れると感じた。彼女との関係も現実だったとギリギリ捉えられなくもない(子供がいる前だから親しくないフリ、自分の部屋に突然座っているからビックリしてヨソヨソしくなったかも)。ただ、確実に妄想と断定できてしまう場面があってそれは最初のテレビ番組出演。後半でアーサーが司会者と控室で打ち合わせをする時に「初めまして」というような会話があってあれが妄想と分かるのだが、ここがちょっとだけ勿体なかったかなと。現実だと思わせといて妄想だった、と思わせておいて実はやっぱり現実だったという可能性を残して欲しかった。

 アーサーの母親と有名実業家との関係も面白い。どっちが本当の事を言っているのか。書類が出てきてアーサーは養子だと記載されているが実業家の権力で全て捏造し、彼女を精神疾患に見立てて嘘をなすり付けたとも見れる。つまり母親の言っている事がやっぱり本当で、2人は実の親子であり本当の父親は実業家の男であると。こちらは都合の悪い事実が妄想として処理されてしまったのかもしれない。

 不謹慎にも笑える場面があって、アーサーが少年達に看板を奪われてダッシュしたり、パフォーマンスの最中に拳銃を落としてしまったりと慌てふためく様子がピエロの格好だから余計に滑稽で面白い。1番笑えたのはライブの最中に持病の笑いの発作が止まらなくて全然ネタがうまく喋れなくて、全く受けてなくて、自分の笑い声だけが虚しく響いていて、一生懸命やってるのに全然うまくいってなくて、悲壮感がある場面にも関わらず僕は面白くて仕方がなかった。笑うところではないけど不謹慎にも笑ってみろと言わんばかりに、そんな所も計算されて作られているかもしれない。

 ラストシーンも『トータルリコール』ばりの全て妄想落ちとも解釈できるし、実際に捕まった後の取り調べとも見れる。部屋から出た後の血の足跡は実際にはついてなくて、アーサーの狂気を表した演出だと僕は思った。最後の最後にアーサーが廊下を走っている場面には血の足跡はついてないような気がする。とにかく、観た人によって色んな解釈が出来る場面が多い。

 アーサーが地下鉄で暴れたり、元同僚をハサミでズタズタにしたり、生放送中に司会者を拳銃でブチ殺したりで、もう滅茶苦茶にしたれというシーンがあって、しかもそれらの行動が社会的弱者に熱狂的な支持を得ていく展開で、これに変な影響も受ける人も出てくるんじゃないかと思って観ていたのだが、そう言えば去年、日本でジョーカーの格好を真似た男が地下鉄で暴れた事件があったなと、思い出した。事件を起こすのは、いかん。

 ホアキンフェニックスの横顔にリヴァーフェニックスの面影があった。少なくともリヴァーが亡くなった当時は彼の弟でしかなかったホアキンがここまでの俳優になるとは!