dw821memories’s blog

映画の感想などを書いていく予定です

【映画感想】小さいおうち

 『日本統一29』を借りようとしたらなかったので、誰かが面白いと言っていたこの映画を思い出して借りてきた。時代は戦時中でオモチャメーカーに勤める旦那とその奥さん(時子)と息子がいる家庭に女中として働くタキの話で、過去編と現在編が交互に描かれていて、ストーリーのテンポがとてもゆっくりで、過去編はタキばあさんの自叙伝のナレーションも入りとてもわかりやすい。久しぶりに日本の映画を観たけど、洋画と比べるとゆっくりで説明が丁寧でわかりやすい。

 女中と聞くと使用人にこき使われるイメージがあるけど、少なくとも今作の中では家族の人からも暖かく接してくれていて、仕事にイキイキと励む若き頃のタキが描かれている。嫌で嫌でたまらない年寄りからタキへの縁談を時子がタキの気持ちを汲んで断ってくれたり、しっかりと相手の事を思いやっている。いくらなんでもあの縁談は可哀想過ぎる。

 タキが自分と同じく東北地方出身の旦那の会社の新入社員の板倉(吉岡秀隆)と恋愛に発展していくと思いきやそうじゃないのが面白い所。なんと板倉は時子と不倫関係になっていってしまいタキもそれに気がつくのだが、徐々に他の周りの人間にも勘付かれる。その周りの人間からタキに「気をつけた方がいい」「何かあったら教えてくれ」と言われるのが辛いと思った。真っ直ぐで真面目なタキが知らん顔も出来るはずもなく終盤、時子に説得する場面が山場なのだが、そのシーンがこの映画の予告編にまるっと使われているのが大胆だと思った。そしてあの場面が後のタキの人生にすら影響を与えてしまう。

 説得の末、出征する事になった板倉に時子から預かった手紙を渡して向こうから最後に一度会いに来させるはずだったのだが、タキが手紙を渡しても彼は来なかった。これは自叙伝のナレーションで語られる内容で、実は真実ではなかったと後でわかる。タキは手紙を渡してはいなかった。しかもこれは現代編のタキの遺品で手紙が自叙伝と同じ箱にあったから分かる事。なぜタキは手紙を渡さなかったのか?タキは最後に2人を会わせたい気持ちと不倫を止めねばならぬという二つの気持ちがあったと語っているが、実は三つ目の気持ちがあったのではと僕は思った。それは時子に対する嫉妬の気持ちなんだ。実はタキも板倉の事が好きで、出征の別れ際に少しだけ接近する。表向きには不倫関係を止めさせる為に手紙を渡さなかったと見えるが、タキの根底には二人を会わせたくないという嫉妬の気持ちがあったんだ。そして結果的には二人は永遠に会えなくなってしまい、それを後に悔やんだタキは孤独を選んだと思える。最悪の縁談を断ってくれた時子がタキに「あなたにもっといい人へお嫁に出すのが私の夢だ」とまで言ってくれた彼女に対して嫉妬してしまい、板倉と会わせなかった事に自責の念に取り憑かれてしまった。板倉に会いに行こうとした時子を説得したまでは理性的に動いていたけど、預かった手紙を渡さなかったのは感情的になってしまったと思う。

 しかし、それを考慮に入れてもタキがそれを気にし過ぎて悩んで後の人生まで孤独を貫いてしまったならばあまりにも淋しすぎる。こういう時には敢えて人のせいにするのもありだし(不倫が悪い)、時代のせいにするのもありだ(戦争が悪い)。自分が全部悪いと思うより、周りのせい、時代のせいと開き直った方が時として心が軽くなる。タキを悩ませたのは全部自分以外の出来事。それに気が付く事が大切だと思った。それから、健史(タキばあちゃんの妹の孫)が自叙伝の板倉とその後有名な画家になったイタクラショウジが同一人物と気が付くのが遅すぎる。健史の彼女がスマホで検索したら一発で出てくる。タキばあちゃんは恐らく知っていたはず。誤字脱字を調べる前にタキばあちゃんはそれを健史に気付いてもらう事を密かに期待していたはずだ!